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106  アリア

Auteur: KAZUDONA
last update Dernière mise à jour: 2026-02-23 10:53:12

 謁見の間には、レオン王の宣言が重々しく響き渡っていた。

 一週間後に開催される剣術大会。それは、人類の脅威に対抗するための精鋭を選抜する重要な儀式でもある。しかし、カリナには一つ、どうしても確認しておかなければならない懸念があった。

「陛下。剣術大会ということは……まさかとは思いますが、真剣を使う訳ではないのですよね?」

 冒険者ギルドの訓練や一般的な模擬戦では、刃引きをした剣や木剣を使うのが通例だ。Aランクの実力者同士が真剣でぶつかり合えば、手加減をしたとしても事故は避けられない。だが、レオン王は鷲のような鋭い瞳でカリナを見据え、短く答えた。

「いや、真剣での立ち合いになる」

「なっ……真剣、ですか?」

 カリナが眉をひそめると、隣に控えていたカグラも扇子で口元を覆い、懸念を示した。

「陛下。いくら腕に覚えのある者同士とはいえ、真剣勝負となれば、下手をしたら死傷者が出る恐れがございますわ。未来の戦力を選抜する場で、有望な若者が命を落としては本末転倒では?」

「うむ、そなたらの言い分はもっともだ。だが、案ずることはない。それについては、ここにいるアリア殿が、特別な『魔道具』を準
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     謁見の間には、レオン王の宣言が重々しく響き渡っていた。   一週間後に開催される剣術大会。それは、人類の脅威に対抗するための精鋭を選抜する重要な儀式でもある。しかし、カリナには一つ、どうしても確認しておかなければならない懸念があった。「陛下。剣術大会ということは……まさかとは思いますが、真剣を使う訳ではないのですよね?」 冒険者ギルドの訓練や一般的な模擬戦では、刃引きをした剣や木剣を使うのが通例だ。Aランクの実力者同士が真剣でぶつかり合えば、手加減をしたとしても事故は避けられない。だが、レオン王は鷲のような鋭い瞳でカリナを見据え、短く答えた。「いや、真剣での立ち合いになる」「なっ……真剣、ですか?」 カリナが眉をひそめると、隣に控えていたカグラも扇子で口元を覆い、懸念を示した。「陛下。いくら腕に覚えのある者同士とはいえ、真剣勝負となれば、下手をしたら死傷者が出る恐れがございますわ。未来の戦力を選抜する場で、有望な若者が命を落としては本末転倒では?」「うむ、そなたらの言い分はもっともだ。だが、案ずることはない。それについては、ここにいるアリア殿が、特別な『魔道具』を準備してくれているのだよ」 王の言葉を受け、アリアが一歩前に進み出た。彼女が何もない空中に手をかざすと、誰も見たことがない未知の魔法陣が展開され、そこに闘技場の様子を模した鮮明な立体映像が投影された。「ご心配には及びませんよ。私が開発した、この『身代わりの水晶』があれば、誰も死ぬことはありません」「身代わりの水晶……? ずいぶんと大きいな」 カリナが驚くのも無理はない。投影された映像では、闘技場の舞台の両端に、優に人ひとり分の大きさがある巨大な水晶が設置されていたからだ。「はい。大会には大観衆が押し寄せますから、遠くの客席からでも状態が視認できるよう、このサイズに設計しました」 アリアはカリナ達に向き直り、落ち着いた丁寧な口調で説明を始めた。「これは対象の魔力と生命力をリンクさせる特殊な魔道具なんです。勝負の前に、この水晶に自分の魔力を流して記憶させておけば、戦闘で受けたダメージは全てこの水晶が肩代わりしてくれますよ」 アリアはニッコリと微笑み、続ける。「例えば、腕を斬られたとしましょう。その瞬間、痛みと衝撃は走りますが、肉体には傷一つつきません。代わりに、舞台の端に設

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